とほほの個人事業主入門
目次
はじめに
定年も間近に迫ってきました。定年後は雇用延長や再就職ではなく個人事業主の線も考えてみようかと、個人事業主について少し勉強してみましたので紹介します。インボイスの勉強から始めたので消費税の扱いが重点になっています。
リンク先資料を読むと西暦ではなく和暦で記載していることが多いので先に早見表をおいておきます。
令和4年(2022年) 令和5年(2023年) 令和6年(2024年) 令和7年(2025年)
令和8年(2026年) 令和9年(2027年) 令和10年(2028年) 令和11年(2029年)
働き方の呼称
まず、個人事業主に関係しそうな働き方の呼び方を集めてみました。
- 会社員:法人と雇用契約を締結して働く人を言います。副業の広告収入などを得て確定申告していたとしても白色申告している間はこの分類になります。
- フリーター:フリーアルバイターの略で正社員ではなくアルバイトやパートで収入を得ている人を指します。厚生労働省の定義によると 15~34歳(女性は未婚のみ)をフリーターとして分類しているそうですが、35歳を過ぎていてもフリーターと呼ばれることもあります。
- フリーランス:雇用契約ではなく単発の個別契約により仕事(事業)を行う人を指します。開業届は出さなくても罰則はありませんが、開業届 を出して個人事業主として行う場合や、法人として行う場合もあります。
- 個人事業主:個人で 開業届 を提出して事業を開設した人を指します。資本金は不要です。社会保険の加入義務もありません。青色申告を利用できるようになります。負債が生じた場合はすべて自分の責任となります。
- 自営業:法人に属さずに事業を営んでいる者全体をさします。フリーターや個人事業主も含みます。法人化する場合もあります。店舗経営者などがよく使用する呼び名です。法人化した場合負債の責任は法人となり個人責任は有限となります。
- 法人:組織として事業を開設し、登記手続きを行った組織や団体を指します。資本金が必要です。社会保険への加入義務があります。個人ではなく組織として会計管理を行います。株式会社、合同会社、NPO法人、社団法人、財団法人などがあります。
本書では、上記の法人と法人化した自営業以外の者をまとめて個人と呼びます。
開業届
- 所得税法 229条で個人であっても事業を始めた場合は、事業開始から1ヵ月以内に 開業届 の提出を義務付けています。
- 正規/非正規にかかわらず雇われている場合は雇用契約の従事者なので事業とは呼びません。
- フリーランスのような個別契約や、商売のような売買契約が事業とみなされます。
- 開業届を出さなくても罰則がないため出さずに事業しているケースも多いですが、出した場合下記などのメリットがあります。
- 青色申告 することができます。
- 小規模企業共済に加入できます。
- 銀行口座の名義に屋号をつけることができます。
- オフィスを借りたり融資を申し込む際に事業主としての証明になります。
- ただし、下記のデメリットもあります。
- 失業保険を受けている/受けようとしている場合、受給資格は無くなります。
- 健康保険の扶養を受けている場合、扶養をうけられなくなるケースがあります。企業によって条件は異なります。
- 参考:個人事業の開業届出・廃業届出等手続(↗)
青色申告
- 以前は青色の紙を使用していたことから 青色申告 と呼ばれます(諸説あり)。今は白い紙や電子申請です。
- 個人が青色申告するには 開業届 を提出して個人事業主となる必要があります。
- 個人事業主でも経理管理が面倒などの理由で白色申告することも可能です。
- 法人でも青色申告で申告することは可能です。
- 所得税の青色申告承認申請書 の提出が必要です。
参考:所得税の青色申告承認申請手続(↗)
- 下記などのメリットがあります。
- 10万円または55万円または65万円の控除が受けられます。
- 赤字を翌年/翌年度以降3年間繰り越すことができます。
- 条件を満たす家族従業者給与を経費として控除することができます(事前申請が必要)。
参考:青色事業専従者給与と事業専従者控除(↗)
- 30万円未満の減価償却資産を単年度償却することができます。
- 自宅作業の場合、電気代や通信費の按分を経費とすることができるという話もありますが、これは白色申告でも可能です。
- 下記などのデメリットがあります。
- 開業届や法人登記は必須です。
- 55万円/65万円の控除を受けるには 仕訳帳(複式簿記)、総勘定元帳 などの記帳義務があります(結構面倒)。
- 10万/55万/65万控除には下記が必要です。
- 10万控除:現金出納帳、売掛帳・買掛帳、経費帳、固定資産台帳の作成、損益計算書の提出。単式簿記でも可。
- 55万控除:上記に加え、事業所得または事業規模の不動産所得があり、複式簿記で記入し、申請は遅延無く、に青色申告決算書(貸借対照表と損益計算書)を添付する。
- 65万控除:上記に加え、e-Taxで申告するか、訳帳と総勘定元帳を「優良な電子帳簿」として保存している。
参考:青色申告特別控除(↗)
消費税
- 商品・製品販売やサービス提供などの取引に課税される税です。
- 買手が 1,000円 の商品を購入した場合、買手は 1,000円 に加えて 10%(100円) の消費税を売手に支払います。
- 売手はこの 100円 から必要経費にかかった消費税を引いた額を国と地方に治めます。
- 国と地方の取り分は、国が 78%、地方が 22% となります。
- 酒類等を除く食品等、一部の商品に関しては当面 軽減税率制度 の対象となり、10% ではなく 8% の消費税となります。
- 10% や 8% の1円未満の端数を切捨て、切上げ、四捨五入するかは事業者の判断にまかされています。
- 参考:消費税(↗)
軽減税率制度
- 2019年5月1日から消費税が 8% から 10% に引き上げられました。
- ただし、スーパーで購入する食品など一部の商品については当面(時期未定) 8% のまま据え置かれています。
- 基本的には飲食料品が軽減税率となりますが、酒類、外食、ケータリング(有料老人ホームを除く)は対象外となります。
- 飲食料品とおまけなどが組み合わさっている場合、飲食料の価格の割合が 2/3 を下回る場合は対象外となります。
- 10% のことを 標準税率、8% のことを 軽減税率 と呼びます。
- 参考:消費税の軽減税率制度(↗)
消費税の端数計算
- 売価に 10% または 8% を乗じて生じた 1円未満の端数は、事業者の判断で切上げても、切下げても、四捨五入してもよいことになっています。
- ただし、1枚の領収書やレシートに記載された個々の商品毎に端数計算することはできず、1毎の領収書やレシートで税率ごとに1度だけまとめて端数計算することができます。
- 例えば1枚のレシートで15円の商品と18円の商品を購入する場合、15円×10%=1円(切捨て)、18円×10%=1円(切捨て) で合計2円とすることはできず、(15円+18円)×10%=3円(切捨て) の様に計算します。標準税率(10%)の商品と軽減税率(8%)の商品はそれぞれ分けて計算します。
課税事業者(納税義務者)
- 消費税を受け取った者で国と地方に消費税を納める義務を負う個人や法人をいいます。
- 開業届を出していなくても、消費税を受け取った者で 免税事業者 ではない者はすべて課税事業者となります。
免税事業者
- 消費税を受け取った個人や法人でも下記の条件をすべて満たす場合は消費税の納税が免除されます。
- 基準期間(個人の前々年/法人の場合は前々年度) における 課税売上高 が1,000万円以下である。
- 特定期間(前年/前々年度の前半6ヵ月間) における 課税売上高 が1,000万円以下である。
※ 特定期間の1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額とすることもできます。
- 適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者) ではない。
- 消費税課税事業者選択届出書 を提出していない。
- 整理すると、個人の場合、2025年に受け取った消費税は、2023年の課税売上高が1,000万円以下で、かつ、2024年1月1日~6月30日の課税売上高も1,000万円以下で、かつ、③ と ④ の条件を満たせば免税事業者となるため国と地方に納める必要はありません。
- 参考:納税義務の免除(↗)
消費税に関する売上高・税額の名称
課税売上高
- 対象期間中に課税事業者であった場合は売上金額(税込)から消費税を差し引いた税抜売上高。
- 対象期間中に免税事業者であった場合は売上金額(税込)から消費税は差し引かない税込売上高。
売上税額
- 事業により得た売上に伴い、買手から預かった消費税額です。
仕入税額
- 事業を行うために、他の売手に支払った消費税額です。
仕入税額控除
- 消費税を国と地方に納める際に 売上税額 から 仕入税額 を差し引くことをいいます。
- インボイスの無い支払いは控除することができません。
- 原則、インボイスを受け取り、保管しておけば、支払った消費税分を控除することができます。
- 交通費など、受け取りや保管が難しい場合は帳簿の記載と保存のみで控除できるものもあります。
参考:帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合(↗)
- 保管期間は個人も法人も 課税期間 末日の翌日から2ヵ月を経過した日から7年間とされています。
消費税に関わる期間の名称
2023年(度) |
2024年(度) |
2025年(度) |
2026年(度) |
基準期間 |
特定期間 |
|
課税期間 |
納税申告 |
基準期間
- 個人の場合は課税期間の前々年の期間をいいます。
- 法人の場合は原則としてその事業年度の前々事業年度をいいます。
- 基準期間の 課税売上高 が1,000万円を超えると、課税期間に受け取った消費税に関して納税の義務が発生します。
特定期間
- 個人の場合は課税期間の前年の1月1日~6月30日の期間をいいます。
- 法人の場合は原則その事業年度の前事業年度開始の日~6か月の期間をいいます。
- 基準期間の 課税売上高 が1,000万円を超えると、課税期間に受け取った消費税に関して納税の義務が発生します。
課税期間
- 課税が行われる対象の期間を言います。
- 個人の場合は1月1日から12月31日、法人の場合は事業年度を指します。
消費税額計算方式
- 売上税額 と 仕入税額 の計算方式には 積上げ計算方式 と 割戻し計算方式 があります。
- インボイス発行事業者は売上税額計算に積上げ計算を選択することが可能で、この場合は仕入税額計算にも積上げ計算を使用します。
- インボイス発行事業者か否かに関わらず、売上税額計算が割戻し計算の場合、仕入税額計算にはどちらかを選択することができます。
- 仕入税額 に関しては下記の計算に寄らず 簡易課税方式 や 2割特例 で売上税額に一定の割合を乗じて計算する場合もあります。
売上税額 | 仕入税額 | 備考 |
積上げ計算 | 積上げ計算 | インボイス発行事業者の場合のみ |
割戻し計算 | 積上げ計算 | インボイス発行事業者に関わらず |
割戻し計算 |
- 計算した消費税(国+地方)は、納税額の 78% を国に、22% を地方に納めますが、国に治める額を [消費税]、地方に納める額を [地方消費税] と呼び、まず [消費税](78%分) を求めて、その 22/78 を [地方消費税] とする説明があるので少々混乱することがあります。
積上げ計算方式
- 個々のインボイスに記載された消費税(10%/8%)を積み上げて計算する方式です。
Σ (個々のインボイスに記載された消費税額(個々に端数処理済)) = 総消費税額
- 個々のインボイス毎に端数計算します。割戻しに比べて若干安くなる傾向にあります。
割戻し計算方式
- 標準税率(10%)のものと軽減税率(8%)それぞれの年間の総売上高(税込)を算出し、まとめて税金計算します。
端数処理 (Σ標準税率対象売上高(税込) × 100/110 × 10%) = 総消費税額
端数処理 (Σ軽減税率対象売上高(税込) × 100/108 × 8%) = 総消費税額
- 1年間分まとめて端数計算します。積上げに比べて若干高くなる傾向にあります。
消費税納税方式
- 個人の場合は翌年の3月31日、法人の場合は決算月の末日から2ヵ月以内に確定申告を行います。
- 税務署に 納税申告書 を提出します。
参考:消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等(↗)
- 納税には下記の3方式があります。インボイスの恩恵を得るのは 一般課税方式 の場合です。
一般課税方式(原則課税方式)
簡易課税方式
- 売上税額 に事業区分に応じた乗率をかけたものを 仕入税額 とみなし、仕入税額 を差し引いた額を納めます。
- 卸売業(90%)/小売業(80%)/製造業(70%)/飲食店等(60%)/サービス業(50%)/不動産業(40%)などの乗率が定められています。
- 課税売上高 が5,000万円を超える場合はこの方式を利用できません。
- 課税期間の前日までに 消費税簡易課税制度選択届出書 の届け出が必要です。
参考:消費税簡易課税制度選択届出手続(↗)
特例課税方式(2割特例)
インボイス制度
インボイス制度の概要
- 英語の invoice は 請求書、納品書、送り状という意味を持ちます。
- 2023年10月1日から導入された消費税の仕入税控除の制度です。
- 買手側が消費税の税控除を受けるために売手側からインボイスを受け取ります。
- インボイスとはインボイス発行事業者として登録した者の 登録番号 が記載された請求書、領収書、レシートなどをいいます。
- スーパーなどで買い物をした際のレシートに下記のような登録番号が記載されていると思います。これがインボイスです。
登録番号:T123456789XXXX
インボイス受取者(買手側)
- 売上と一緒に受け取った消費税は国と地方に治める必要があります。
- 例えば、1,000万円の売上(税抜)があり、100万円の消費税を受け取った場合、100万円を消費税として国と地方に治めます。
- ただし、1,000万円の売上のために自分が支払った消費税は上記から控除することができます。
- 例えば、仕入で400万円(税抜)+40万円(消費税)を支払っている場合、100万円から40万円分の消費税を差し引くことができます。
- ただし、控除できるのは原則的にインボイス発行事業者から登録番号が記載されたインボイス(領収書など)を受け取った場合のみです。
- インボイス未発行事業者に支払った消費税は原則的に控除することはできません。
インボイス発行者(売手側)
- インボイスを発行するためには事前にインボイス発行事業者の登録を行う必要があります。
- 前々年の売上が1,000万円以下などの一定の条件を満たす場合は免税事業者となり、受け取った消費税を国と地方に治める必要はありませんが、インボイス発行事業者となった場合は免税事業者になることはできません。
- 売上が 1,000万円 以下の場合、消費税を国と地方に治める義務が生じることはデメリットですが、発注主から仕事を受けやすくするために渋々インボイス発行者になるケースがあります。
適格請求書等保存方式(インボイス制度)
適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)
- インボイスを発行することができる個人や法人を言います。
- 事前に 適格請求書発行事業者の登録申請書 を提出して登録が必要です。
参考:適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)(↗)
- 本来は 消費税課税事業者選択届 の提出も必要ですが、2029年9月30日までの日が属する課税期間中は省略できます。
参考:消費税課税事業者選択届出手続(↗)
- 登録すると 登録番号 が割り振られます。
- 新たに事業を開始した場合は 課税期間(個人の場合は年/法人の場合は年度) の末日までに登録申請することで、課税期間の初日までさかのぼって登録を受けることができます。
- 一度適格請求書発行事業者登録を行うと、登録日から2年間は免税事業者となることはできません。
- 登録を行うと下記のサイトで事業者情報(個人の場合原則的に氏名、登録番号、登録年月日)が公表されます。
参考:国税庁適格請求書発行事業者公表サイト(↗)
登録番号
- 適格請求書発行事業者に付与される番号です。
- 個人の場合は T+13桁数値 が割り振られます。
- 法人の場合は T+13桁法人番号(1桁チェックディジット+12桁法人番号) が登録番号となります。
経過措置
インボイス
狭義のインボイスは 適格請求書 を意味します。広義のインボイスは 適格請求書 および 適格簡易請求書 を意味します。
- 「請求書」の名前がついていますが、領収書やレシートでも構いません。
- 適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者) が発行する、登録番号 が記載された請求書、納品書、領収書、レシートなどです。
- 適格請求書(インボイス)には下記を含む必要があります。
- 適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の氏名または名称。
- 登録番号(T...)。
- 取引年月日。
- 取引内容(軽減税率を含む場合は軽減税率の対象品目である旨)。
- 税率ごとに区分して合計した対価の額、および適用税率。
- 税率ごとに区分した消費税額等。
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称。
適格簡易請求書(簡易インボイス)
- 適格請求書の記載事項を簡略化したもので、これも(広義の)インボイスとして扱うことができます。
- 適格簡易請求書を発行できるのは、①小売業、②飲食店業、③写真業、④旅行業、⑤タクシー業、⑥駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限る)、⑦その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業に限られます。
- 適格簡易請求書(簡易インボイス)には下記を含む必要があります。
- 適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の氏名または名称。
- 登録番号(T...)。
- 取引年月日。
- 取引内容(軽減税率を含む場合は軽減税率の対象品目である旨)。
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)。
- 税率ごとに区分した消費税額等、又は適用税率。
- 細かな差異はありますが、⑦のインボイスを受け取る者の名前を記載しなくてもよい点が大きく異なります。
- 参考:適格簡易請求書の記載事項
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初版:2025年1月12日、最終更新:2025年1月12日
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