とほほの法令入門

目次

法令の分類と優先度

日本の法令関連文書には優先度があり、おおよそ次のような関係にあります。上が優先度の高い(強い)ものです。より優先度の高いものと矛盾があるものは、たとえ成立後であっても効果を失います。

国の最高法令
(憲法)
国際間で締結
(条約)
国会で制定
(法律)
天皇が制定
(勅令)
内閣で制定
(政令施行令)
国の行政機関で制定
(府令省令庁令規則)
地方公共団体で制定
(条例規則要綱例規)
法令ではないもの
(告示訓令通達通知)

憲法

日本国の最高法規として1946年11月3日に公布、翌年5月3日に施行されました。「基本的人権の尊重」、「国民主権」、「平和主義」を三大原理としています。「第一章 天皇」、「第二章 戦争の放棄」、「第三章 国民の権利及び義務」、「第四章 国会」、「第五章 内閣」、「第六章 司法」、「第七章 財政」、「第八章 地方自治」、「第九章 改正」、「第十章 最高法規」、「第十一章 補則」の項目で構成されています。

条約

国家間で締結されるものです。著作権に関する「ベルヌ条約(1886年)」、「南極条約(1959年)」、「宇宙条約(1966年)」、気候変動に関する「京都議定書(1997年)」、「パリ協定(2015年)」などがあります。日本では法律よりも優位な法令としていますが、米国や韓国では法律と同等、南アフリカなどでは法律よりも劣位としています。

法律

憲法や条約に反しない範囲で国会で定められるのが法律です。現在の日本では2,000を超える法律が制定されています。その中で、憲法と合わせて特に重要ものが「憲法」、「民法」、「商法」、「刑法」、「民事訴訟法」、「刑事訴訟法」の 六法 と呼ばれています。末尾に、主な法律の一覧を掲載しています。

勅令

法律とは別に天皇が定めるのが勅令です。戦前に天皇によって発せられていました。現在では大半は廃止されていますが、「文化勲章令(昭和12年)」や、医療費の自己負担3割を定めた「健康保険法施行令(大正15年)」など、現在も効力が残っているものもあります。法令としての優先度は、政令の一部として管理されたり、政令によって上書きされたりもしているようです。

政令・施行令

国会が決める法律に対して内閣が制定するのが政令です。施行令とも呼ばれます。法律が規定される際にその法律に関する補則規定を決めるももが多く、例えば「労働者派遣法」に対して「労働者派遣法施行令」、「建築基準法」に対して「建築基準施行令」などが定められます。他には、政令指定都市を定めた「指定都市の指定に関する政令」などがあります。政令の数も2,000を超えています。

府令・省令・庁令・規則

国の各府省庁が定める法令や規則です。法律や政令よりもさらに細かな補則規定を決めるものもあります。例えば、「労働者派遣法」(法律)、「労働者派遣法施行令」(政令)に対して「労働者派遣法施行規則」(省令)などが定められます。正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則」など、長いものが多いです。

条例・規則・要綱・例規

都道府県や市町村などの地方公共団体が定めるものです。該当地方でのみ効力を持ちます。「青少年保護育成条例」、「迷惑防止条例」などがあります。条例で罰則を規定することもできますが、「二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料」に制限されています。

告示・訓令・通達・通知

法令ではありませんが、国や地方自治体が発行する文書に告示・訓令・通達・通知などがあります。「学習指導要領」、「現代かなづかい」、「人名用漢字」、「常用漢字」、「公用文作成の要領」、「不動産鑑定評価基準」など、法令ではないけれども、基準となる目安やガイドラインを示したりします。

民法と刑法

個人と個人間の法律が 民法、国家と個人間の法律が 刑法 です。民法(民事)には土地所有権、相続権、債権などに関するものがあります。個人(原告)と個人(被告)が争い、賠償金等が課せられることがあります。刑法(刑事)には殺人、傷害、窃盗などに関するものがあります。国家(検察)が個人(被告)を起訴し、罰則金や懲役などが課せられます。警察は基本的には民法の範囲には介入しません(民事不介入)。

親告罪と非親告罪

親告罪は、告訴が無い限りは裁判が始まることはありません。一方、非親告罪は訴えが無くても裁判が行われます。強制猥褻・強姦罪はこれまで親告罪として被害者の告訴が必要でしたが、被害者のプライバシーを考慮することもあり、2017年からは非親告罪となりました。著作権も親告罪でしたが、2018年からは大規模なものになると非親告罪として扱われるものもでてきました。

懲役と禁錮

懲役も禁錮も刑務所に収容されますが、労働義務があるのが懲役、無いのが禁錮です。故意の場合は懲役刑、過失の場合は禁錮刑となることが多いようです。義務がある分懲役の方が重い罪ですが、禁錮であっても約8割は本人希望により労働従事するようです。ただし、2022年6月13日、115年ぶりの法改定で懲役刑と禁錮刑が拘禁刑に統一され、労働有無は刑務所が判断することになりました(2025年から施行)。

実刑と執行猶予

「懲役3年」など懲役または禁錮のみ言い渡されるのが実刑です。言い渡された期間刑務所に収容されます。「懲役2年、執行猶予3年」など執行猶予がついた場合は刑務所への収容(執行)が猶予されます。執行猶予がついた場合は普通の生活を続けることはできますが、前科はつきます。執行猶予期間中に再犯を犯した場合は猶予が解除され、刑務所に収容されます。

身近な法律違反

身近な軽犯罪法違反として、正当な理由なくバットを所持する(第1条2号)、働く能力があるのにホームレスとしてうろつく(第1条4号)、建物や森林近くでの焚火(第1条9号)、行列に割り込む(第1条13号)、こじきをする(第1条22号)、道端に唾を吐く(第1条26号)、立ち小便(第1条26号)などがあります。軽犯罪法以外にも、ゴミを不法投棄する(廃棄法)、処方された薬を人にあげる(薬機法)、その場で気付いたけど釣銭をネコババする(詐欺罪)、後から気付いたけど釣銭をネコババする(占有離脱物横領罪)、別れた彼女が残した私物を勝手に処分する(器物損壊罪)、前の車が遅かったり青信号になっても発進しないのでクラクションを鳴らす(道交法)、宿泊者名簿に偽名を記入する(旅館業法)、膝カックンやカンチョー(暴行罪・傷害罪)、決闘する(決闘罪)などがあります。

主な法令一覧

■ 憲法
憲法(1)

■ 条約
 条約

法律 (2,280)
 憲法・法令関連
│├元号法│├国民の祝日に関する法律│└個人情報の保護に関する法律 行政関連
│├行政組織関連
││├内閣法││└国家公務員法│├ 地方自治関連
││├地方自治法││└住民基本台帳法│├ 財産関連
││├財政法││├所得税法││├法人税法││├相続税法││├所得税法││└酒税法│├ 行政手続き関連
││└国家賠償法│├ 国土開発・都市計画関連
││├国土調査法││├都市計画法││└道路法│└ 警察・防衛関連
│ ├警察法│ ├消防法│ ├自衛隊法│ ├道路交通法│ ├風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律│ └銃砲刀剣類所持等取締法 教育・文化保護関連
│├教育基本法│└学校教育法 社会関連
│├ 労働関連
││├労働基準法││├労働組合法││└最低賃金法│├ 福祉・厚生関連
││├社会福祉法││├生活保護法││├健康保険法││├介護保険法││└食品衛生法│└ 消費者保護関連
│ ├消費者基本法│ └家庭用品品質表示法 環境関連
│├環境基本法│├騒音規制法│└自然環境保全法 観光関連
│└観光立国推進基本法 裁判関連
│├裁判所法│└弁護士法 民事法関連
│├ 民法関連
││├民法││├宗教法人法││├戸籍法││├利息制限法││├製造物責任法(PL法)││├借地借家法││└自動車損害賠償保障法│├ 商法関連
││├商法││├会社法││├商業登記法││├手形法││└小切手法│└ 民事手続き関連
│ ├民事訴訟法│ ├民事調停法│ ├破産法│ └民事更生法 刑事法関連
│├ 刑法関連
││├刑法││├軽犯罪法││├軽犯罪法││├治安維持法││├爆発物取締罰則││├ストーカー行為等の規制等に関する法律││└売春防止法│├ 刑事手続き関連
││├刑事訴訟法││├交通事件即決裁判手続法││└少年法│└ 矯正保護関連
│ ├刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律│ ├少年院法│ └更生保護法 知的財産関連
│├特許法│├実用新案法│├商標法│├著作権法│├不正競争防止法│└映画の盗撮の防止に関する法律 産業関連
│├ 通則関連
││├独占禁止法││├下請代金支払遅延等防止法」(下請法)
││└不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法)
│├ 農林水産関連
││├主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(食糧法)
││├獣医師法││└農薬取締法│├ 工業関連
││├火薬類取締法││├電気事業法││├ガス事業法││├水道法││├原子力基本法││└電気工事士法│├ 金融・保険関連
││├金融商品取引法││├銀行法││├信用金庫法││└保険業法│├ 建築関連
││└建築基準法│├ 運輸関連
││├鉄道事業法││├高速道路株式会社法││└船舶安全法│└ 電気通信関連
│ ├電気通信事業法│ ├放送法│ └電波法 外事関連
│└国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(PKO協力法)
 その他
 └福島復興再生特別措置法■ 政令
政令(施行令)」(3,016令):内閣
労働者派遣法施行令」:労働者派遣法を補足

■ 府令・省令・庁令・規則
府令・省令」(4,125令):各省大臣
労働者派遣法施行規則」:労働者派遣法や派遣法施行令を補足
外局の規則」(393令)
規則│├ 国家法
│└ 地方法
庁令■ 条例・規約・要綱・例規
地方自治体の条例地方公共団体の規則■ 告示・訓令・通達・通知
 告示
│├学習指導要領│├現代仮名遣い│├人名用漢字│└常用漢字 訓令
 通達
│├公用文作成の要領│└不動産鑑定評価基準 通知